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by pugan

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芙江 2008年

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「台山は叔母の家の持ち山だった。叔父が以前鉄道に勤めていた頃買って置いたとかいう山で、栗の本が植え込まれていた。」  

金子文子は八〇年余り前に市ヶ谷刑務所の独房で芙江の少女時代を回想し手記に認めた。  韓国訪問の目的の一つに、この山を歩くことを計画に入れていた。芙江という慶尚南道の小さな町に位置している。

直前の滞在地、南部の光州市から鉄道で行くには不便であった。前日に釜山市郊外のバスターミナルで買った『時刻表』をもとに乗継電車を決めていた。

芙江駅は在来線の駅でムグンファ号が一日数本しか停車をしない。 午前八時、光州駅のホームに停車していた韓国版新幹線・KTXの座席に腰を落としたときは発車二分前であった。乗り損なっていたら次のダイヤまで三時間近く待つしかなかった。西大田駅で一時間半の乗継待ち時間がある。モダンなデザインの駅舎を出て近辺を散策。万博を開催し発展した大田市の中心部までは距離がある。食堂やカフェで時間をつぶす。京畿線に乗換え三〇分で芙江駅に着く。宿泊地ソウルに向かう電車まで三時間ある。
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「先生が、《あれは山ではない、丘だ》と定義をした事がある位で、この山は決して高い山ではなかったが、それでも位置がいいので頂上に登ると、美江が眼の下に一目に見える」

韓国各地も日中の気温は三〇℃前半であり、日本と変わらない。町中を数分歩くだけでも汗をかく。台山への登り口が明示されているわけではない。町の端にある中学校の敷地から登れると見当をつけた。 坂道を登りきった門から校庭を抜け真ん中にある石段を上がった。 校庭からは望めなかった畑が広がり後背地に薮と林がある。強引に薮にはぃった。引掻き傷と襲いかかる薮蚊で剥き出しの腕、脚が腫れてくる。汗が膜になり身体を包み込む。空気が動かない。薮が続くようならば引返し別の取り付き口を捜すしかない。

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「木の枝に褪紅色の栗の実が、今にも落ちそうにイガの外にはみ出している。… 時には草一本ないところに出るかと思えば時には深い草叢のところに出くわした」  

少しだけ進むと開けた窪地があり抜けて均された狭い道と出会えた。道を上に進む。  
尾根すじの道を進むと林の中であるがピークと思われる地点に到った。

昨年一二月に探索した錦江が望める。

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「西北に当っては畑や田を隔てて停車場や宿屋やその他の建物が列なっている。町の形をなした村だ。中でも一番眼につくのは憲兵隊の建築だ」  

現在の芙江は錦江の近くにIT企業の工場が誘致された影響で中層アパートが数棟そびえ宿屋がモテルに変わり町といえるだろう。  
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しかし駅は素朴で停車場と言うにふさわしくまた古くからの居住地域には村の趣きが僅かにある。

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「何だか腹の底から力が湧い来るような気がして、私は思はず「おーい」と誰にと言うのではなく叫んでみる。けれど無論誰もそれに答える筈はない。私は独り山にいるのだ。」  

金子文子の遺骨は三度も移葬され今の墳墓は聞慶の朴烈記念公園の一角を占めている。  三日後に訪れたとき「台山」で拾った緑の栗のイガを墓に添えた。
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 彼女が精神の自立を獲得したかつての台山は開発で削られることもなく芙江の町を見守っている。  その山の林の中の道を往きつ戻りつした。

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「ゆったりとした気分になって草の上にごろりと横わって、空を眺める。深い深い空だ、私はその底を知りたいと思う。私は眼を閉じて考える。涼しい風が吹いて来る。草がさわさわと風に鳴る。」  九〇年前の「叫び」に応答が可能であるか…「台山」を彷徨い自立を求めた精神の揺籃の場と深い空を探した。

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『山の本』65巻 2008年9月発行  掲載原稿
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聞慶の現在の墓所

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金子文子の生き方
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by pugan | 2008-07-30 02:30